独学でアイリッシュ・ダンスを踊る

アイリッシュダンス体験談

私は一見、平凡なただの小柄の主婦ですが、実は一発芸的な秘密の特技があります。それは、アイリッシュ・ステップダンスが踊れるの事…。と言っても「何だそりゃ」と思われる方が大半でしょう。少し前に話題になり、日本に何回も公演にやってきた「リヴァ―ダンス」をイメージしてもらえればよいと思います。そう、アメリカのタップダンスのように、靴のかかとをまるで打楽器のようにかつかつとリズミカルに鳴らす…あのダンスです。

 

私は20代の頃、アイルランドの文化が大好きで、何度も語学留学や長期滞在を繰り返しました。歴史や美術など、そういった人文系の研究を深めていたのですが、とても内気な性格が災いし、「現代に生きる伝統」、ダンスや音楽と言った文化には、ただ観客として参加するのみでした。本当は、観光客むけに開催しているそういったワークショップなどに参加できればよかったのですが…。

 

帰国後も私はひたすら、アイルランドの伝統文化を外から眺め、そして憧憬し続けました。文学に触れ、音楽を聴き、そしてダンスの動画を見る…。学生から社会人となり、結婚して家庭を持ちました。子どもが生まれ、新米母親として慣れない育児に奮闘する毎日。アイルランドは遠ざかりました。あまりに頑張りすぎ、そうしてある日倒れてしまいました。産後うつ、バーンアウト(燃え尽き症候群)と診断されたのです。

 

鬱々とした通院生活の中で、主治医は「何か軽運動をした方がいいですよ、気分転換になるし」とすすめます。そこでウォーキングや体操を始めましたが、ただ歩き続けるだけでは何も楽しくありません。というより、私はその頃何も楽しくありませんでした。家事と子どもに、自分の世界を吸収されつくしていたのです。

 

ある時、ふと動画サイトに「アイリッシュダンス入門」と言う英語のビデオを見つけました。若い女性ダンサーが、ゆっくりとステップを踏んでいます。何となく一緒にステップを踏んでいると、不思議なことに笑いがこみ上げてきました。難しいけれど…心の底から『これって楽しい!』と思えたのです。

 

その頃から私は回復を始めました。少しづつ基本ステップを覚え、手持ちのトラッドCDに合わせて踊れるようになってきたのです。体を動かすことの純粋な楽しさ、愛するアイルランド文化に触れ、私は再び生を楽しむようになったのです。

 

今でも、ふとした折にアイルランド系の音楽を聴くと、足が自然に動いて踊りだします。子どもも面白がって真似をし、二人でよく踊っています。他人様が見たら異様に思うでしょう。ですが、これは私の大切な宝物、人生の楽しみの象徴でもあるのです。